早稲田大学エジプト学研究所
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スタッフ

 

I. 研究の目的
 エジプト、アラブ共和国、メンフィス・ネクロポリスはギザの大ピラミッド、サッカラの階段ピラミッドなど、世界でも最も重要な遺跡が集中する地区であり、1979年という早い時期にユネスコの世界遺産として登録されている重要な遺跡群である。
 近年、この遺跡群でも、エジプトの遺跡にしばしば見られるような人口増加による環境汚染、地下水の上昇、観光客の増加、開発による遺跡破壊などの様々な遺跡劣化の問題が表面化しつつある。ただし、全体的な遺跡整備計画に関しては議論が遅れており、現在、エジプト政府文化省考古最高評議会からも、外国の調査隊に対し、遺跡の保存修復や整備を最重要項目として要請するなど、遺跡保存整備計画の必要性が高まっている。

メンフィス・ネクロポリス マップ

メンフィス・ネクロポリスの位置


 早稲田大学古代エジプト調査隊は、1987年以来、メンフィス・ネクロポリスの中でも主要な遺跡であるギザ(大ピラミッド、大スフィンクス、太陽の船、サッカラ(アブ・シール南丘陵遺跡)、ダハシュール(ダハシュール北遺跡)にて科学研究費補助金などの助成を受け、発掘調査と保存修復・遺跡整備に関する調査を実施してきた。
 過去約20年の間に得られた、保存修復・遺跡整備に関する知見を総合し、メンフィス・ネクロポリスの遺跡整備計画(Site Management Plan)を提示することが長年この地域の調査に関わってきた調査隊としての責務と考え、2007年度より本研究を開始した。

 

II. 研究の方法
 本研究では、「遺跡の重要性の理解のための調査」、「将来的に影響を及ぼす要素の調査」、「方針の策定」という主に3つの行程を経て、メンフィス・ネクロポリスの遺跡整備計画の策定を目指す(下図参照)。この行程は、イコモス(ICOMOS:国際記念物遺跡会議)が設定した国際的な遺跡整備のガイダンスである「ブッラ憲章(Burra chapter)」の行程を参照した。
エジプト現地調査では、調査隊が調査権を持つ2つの遺跡「アブ・シール南丘陵遺跡」と「ダハシュール北遺跡」を中心に調査を実施している。

1.メンフィス・ネクロポリスの遺跡の重要性の理解のための調査
 「遺跡の重要性の理解」のために、特にエジプト学、考古学の側面から調査・踏査を行い、メンフィス・ネクロポリスの遺跡の現状に関する情報を収集する。その他、19世紀以降の調査史の整理も行い、重要性の理解に役立てる。また、人工衛星からのリモート・センシングによる遺跡の観測結果に、考古学的データ、物理探査データを組み合わせ、埋蔵遺跡に関しても情報を取得する。

2.メンフィス・ネクロポリスの遺跡に将来的に影響を及ぼす要素に関する調査
 新たなインフラ整備や観光開発、新たな発掘調査、遺跡整備の方法、地下水・地質の状況、地域住民の活動などの将来影響を与えるであろう要素について、保存科学、地質学、観光学の観点から調査を行い、その対策について検証する。

3.メンフィス・ネクロポリスの保存整備計画の提示
 それまでの調査研究を踏まえ、遺跡整備計画を検討する。検討にあたっては取得したデータを地理情報システム(GIS)上で統合するため、学際的な情報を地理情報と結び付けて管理することが可能となる。「遺跡の重要性」、「将来的に影響を及ぼす要素」に応じ、何を、どこまで、どのような方法で保存するか、という点を明らかにし、より具体性を持った、実現可能な遺跡整備計画を提示することを目指す。


遺跡整備計画策定までのプロセス

遺跡整備計画策定までのプロセス