早稲田大学エジプト学研究所
 
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クフ王の第2の太陽の船

1. はじめに

1954年、ギザ台地に悠然と聳え立つクフ王のピラミッドの南側から東西に並ぶ2つの石列が発見された。東側の石列は調査が行われ、内部に大型木造船の部材が確認された。エジプト考古局は東側の石列の発掘を行った。作業は手動のウインチを利用して行われ、2ヶ月あまりの時間を費やして平均重量14tの蓋石を41個と西端に置かれた鍵石を取り上げた。驚くべきことに、船の部材は、ほんの一年前に安置されたように、堅固で新品同様だったという記録が残されている。発掘後、修復主任のアフマド・ユセフにより復原が行われ、13年あまりの長い歳月と5回にも及ぶ組み直しを経て1971年に完了した。しかし、太陽の船博物館の建設が遅れたため、一般公開されたのはそれから10年以上あとの1982年のことであった。
太陽の船博物館が公開されてから4年後の1986年、当時のエジプト考古庁長官、アフマド・カドリ博士の要請により先端技術による国際共同学術調査団に加わり、独自に開発中であった電磁波地中レーダーを用いてピラミッド南側で調査を行った。その後、1987年に行った調査により太陽の船博物館の西側にもうひとつ竪坑が存在することを確認した。この結果を受けて、1992年から1993年にかけて4度予備調査を行ったものの、さまざまな事情により2008年まで、約15年間調査は中断していた。

 

ギザ台地地図
ギザ台地地図

第2の太陽の船坑平面図
第2の太陽の船坑平面図


2. 太陽の船とは

ラメセス6世墓に描かれた太陽の船
ラメセス6世墓に描かれた太陽の船

 大河ナイルが育んだ文明である古代エジプトにおいて、ナイルを行く船は最も重要な交通手段であった。そのため、古代エジプト人にとって旅とは船で出かけるものであった。ナイルを下るときはオールを使って漕ぎ、上るときは北風を受ける帆を広げて船を動かしていた。このことはヒエログリフにも明らかで、北へ旅することを表すヒエログリフは帆をたたんだ船で、一方、南へ旅することを表す文字は帆を張った船で表現されている。
 古代エジプト人は、毎日変わることなく繰り返される太陽の運行を永遠の秩序ととらえ、太陽神ラーとして信仰していた。そしてこの太陽神は、昼の間は「マアンジェト」という名の船に乗り天空を航行し、夜は「メセケテト」という船で冥界を移動すると考えられていた。太陽神と同一視されていた古代エジプトのファラオはこれらの船に乗り、永遠に航行を続けると考えられ、その様子は王墓内の壁画などにも頻繁に描かれた。
 古代エジプトの人々は、太陽神に同行し、毎日天空と地下の世界を船でめぐる来世を思い浮かべた。永遠の航行に参加することは、永遠の存在と生命を得る一つの方法だと考え、王のように永遠の航行を続ける太陽の船の乗組員になることを願い、自分たちの墓にも船の絵を描いた。

3. 予備調査の結果

ラメセス6世墓に描かれた太陽の船
サンプリングの様子
  1. 船坑内部の空気・・・外気とほぼ同じ組成
  2. サンプル木材の樹種・・・レバノンスギと同じヒマラヤスギ属
  3. サンプル木片の年代・・・クフ王の在位年代(B.C.2551-2528)よりもやや
    古い年代(B.C.2650-2620)※
  4. サンプル木片の状態・・・健全材と比較すると非常に悪い状態

※編年はBaines, J. and Malek, J., 1980, Atlas of Ancient Egypt, Oxford and New York.による。





4. 調査の再開と今後の計画

 2008年、資金の目途がついたことにより、調査が再開されることとなった。2008年10月現在で、これまでに3度にわたる調査を現地で行った。最初の調査においては、本格的な調査の開始に先立って、前回の調査から15年あまりの時間が経過していることもあり、まず内部の状況を確認する必要があった。そこで、CCDカメラを先端に取り付けた機械と温湿度計を用いて内部の観察を行った。また、2度目の調査では、今後活用することを考えている、デジタルカメラを用いた写真測量システムで船坑の上に残存している壁体の3次元データを作成する試みも行った。3度目の調査では、撮影した船坑内部の映像を一般観光客に対して公開するセレモニーが、エジプト考古最高評議会(Supreme Council of Antiquities; SCA)長官のザヒ・ハワス博士立会いのもと、開催された。
 現在は本格的な発掘、木材の保存、実際の船体の復原に向けて、具体的な計画を立案している。
 発掘については、蓋石の除去と同時に内部の温湿度環境を保全するために設営する幅6m×全長30mのテントと空調設備、その後木材の保存処理や船体の組み立てに使用するスペースとして現場に設営する作業用テントと空調設備の計画がほぼ完成し、現地での作業開始を待っている。また、船体の組み立てに当たっては、3次元CADを用いた技術を活用し、木材に与えるダメージを最小限に抑える予定である。

船抗内部の様子
船抗内部の様子
壁体の3次元モデル
壁体の3次元モデル
セレモニーの様子
セレモニーの様子

メンフィス・ネクロポリス テーベ・ネクロポリス

クフ王の第2の太陽の船

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