早稲田大学エジプト学研究所
 
概要 スタッフ アドレス 出版物 イベント   ENGLISH  
メンフィス・ネクロポリスの保存整備計画研究

1. はじめに

 早稲田大学古代エジプト調査隊は、1991年12月より、文部省科学研究費補助金の助成を得てエジプト・アラブ共和国、アブ・シール南丘陵遺跡における発掘調査を行ってきた。アブ・シール南丘陵遺跡は、カイロ近郊のサッカラ遺跡、ジェセル王の階段ピラミッドの北西約1.5kmの砂漠の丘に位置する遺跡である。
 丘陵頂部の発掘調査では、新王国時代第18王朝アメンヘテプ2世とトトメス4世の日乾煉瓦遺構と第19王朝ラメセス2世の第4王子カエムワセトの石造建造物を発見し、更に丘陵斜面からは、古王国時代の石積み遺構、古王国時代から中王国時代の2基の岩窟遺構、第2中間期末期から新王国時代第18王朝初期に年代付けられる未盗掘の集団埋葬を発見している。
 更に、2007年度からは、発掘調査が進展したことを受け、同遺跡の遺構および関連する周辺遺跡、地域までをも含めた総合的な保存整備計画立案に向けた研究を開始した。実施にあたっては、日本学術振興会科学研究費補助金、基盤研究(S)「エジプト、メンフィス・ネクロポリスの文化財保存面から観た遺跡整備計画の学際的研究」(研究代表者:吉村作治)の助成を受けた。その他、三菱財団人文科学研究助成「古代エジプトにおける祭祀の考古学的研究ーアブ・シール南丘陵遺跡を中心としてー」(研究代表者:吉村作治)などの助成を受けた。
 ここでは、2007年度および2008年度に行われた遺跡整備計画に関わる調査を中心に報告する。

2. メンフィス・ネクロポリスの遺跡整備に関する現状調査

 遺跡整備計画の立案にあたっては、オーストラリア・イコモスが設定した遺跡整備のガイダンスである「Burra chapter」の行程を参照した。行程には「遺跡の重要性の理解のための調査」および「遺跡に将来的に影響を及ぼす要素に関する調査」が挙げられている。考古学、保存科学の見地から、それぞれの調査を実施した。
 調査の対象とした地域は、ギザからダハシュールまでの地域である。この地域は1979年に「メンフィスとそのネクロポリス」として世界遺産に登録され、ギザの大ピラミッド、サッカラの階段ピラミッド、ダハシュールの屈折ピラミッドなどの遺跡が集中する重要な地域である。エジプト学、考古学の側面から遺跡の重要性理解のための情報を収集するとともに、保存科学、地質学、観光学の側面から遺跡の劣化状況、遺跡整備の現状、地域住民の活動の問題、景観の問題、環境汚染の問題、観光の問題など、将来的に影響を及ぼす様々な要素の情報を収集した。

石材劣化の例
石材劣化の例
遺跡整備の例(ペピ1世ピラミッド複合体)
遺跡整備の例(ペピ1世ピラミッド複合体)
遺跡に迫る現代の墓地
遺跡に迫る現代の墓地

3. 遺物の保存修復に関する調査

 遺跡整備計画に関わる研究の一環として、出土遺物の保存修復、管理についても調査を行った。出土遺物の中でも、まず石灰岩製レリーフを対象としてコンディション・サーベイを実施し、現状を調査した。併せて遺物が保管されているエジプト考古庁管轄下の倉庫の環境測定を行った。そして、取得した基礎データをもとに、修復作業の優先順位を決定し、順次作業を実施した。また、環境計測結果などをもとに、保管方法についても改善を行った。

修復後の石灰岩製レリーフ
修復後の石灰岩製レリーフ
石材修復作業
石材修復作業
物理探査作業風景
物理探査作業風景

4. 展望

 現在、継続して遺跡整備計画のための基礎データ収集を実施している。考古学、保存科学の調査などに加え、3次元測量や地下の埋蔵遺構を調査する物理探査なども行っている。例えば、物理探査による埋蔵遺構のデータを加えることで、今後のインフラ整備にも有効な提言が可能と考えている。今後、人工衛星による遺跡の観測結果にGISデータ、考古学データ、物理探査データ、保存科学データ、地質データ、観光学データなどを学際的に組み合わせ、遺跡整備計画を立案する計画である。


メンフィス・ネクロポリス テーベ・ネクロポリス

クフ王の第2の太陽の船

王家の谷・アメンヘテプ3世王墓の調査
アブ・シール南丘陵遺跡 ルクソール西岸貴族墓調査
ダハシュール北遺跡 マルカタ王宮址
メンフィス・ネクロポリスの保存整備計画研究 マルカタ南遺跡